有機農業ラブコメ⑥
「ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~」
前回までのあらすじ
有機栽培同好会での一日目の部活が終わり、歓迎会も断って家に帰った才場は…?
アグリ先生に感謝を感じつつ、ここで、有機栽培同好会の今日の活動が終わりとなった。
◆◆◆
家に帰って一通りの家事をこなし、お風呂に入るとどっと疲れが沸いてきた。
「なんだか、今日はいっぱいあったな…。まあ…、主にアグリ先生のせいだけど。」
さっきは感謝の気持ちを感じたが、よくよく考えればアグリ先生のせいなのだから感謝する必要なんてなかった。
それにしても…。
俺の今日の一日は、青春と呼べる日だったんだろうか?同級生と喋ったり、部活に精を出したり、…いずれは異性と恋に落ちたり…。
…考えるまでもない。
あんな無理やり機会を作られた青春もどきは青春とは言えない。
それに、どうせ部活は4月中までという話だし、もしかしたらもっとはやく…。
とにかく、明日も早いし風呂から出ると、俺は横になり眠りへと落ちた。
次の日の朝、俺は筑葉大とそれに隣接する附属病院に来ていた。ちなみに俺が通っている高校は筑葉大の附属高校である。
「あ!きたきた~。才場くん、今日もアルバイトよろしくね!」
そして、アグリ先生の本職は、筑葉大学の准教授なのである。
「こちらこそよろしくお願いします、芥田准教授。俺なんかをアルバイトとして雇ってくださり感謝しています。」
「そんなかしこまらなくたっていいよー!こっちこそ助かってるんだから!…じゃあ、行こっか。」
俺は1月の終わり頃から、週に一度、土日のどっちかに、毎回というわけではないが、アグリ先生の研究の補助として手伝っている。主な内容は資料の整理、研究対象の収集・確保、数値の測定、研究室の掃除である。いくつかの研究は数週間ごとに変化していくが、アグリ先生が日本に来てからというものの研究し続けている対象がある。
それが…。被験者である俺の妹、才場桃華が罹っている病気、「農薬病」の研究である。
「じゃあ、今日は午前中に、頼まれた別件の研究の監修と、共著で書くことになった新しい本の執筆の続きをしちゃうね。才場くんにはまず、別件の研究の資料をまとめてくれる?それから、データを一目で分かるようにしてくれると嬉しいな。後は、…」
「研究室の掃除ですね。」
「いつもごめんね笑。じゃあ、できるとこまででいいのでお願い!」
午後は何をするのかはあえて聞かなかった。俺をバイトとして呼んだってことはそういうことだ。いつも他にいる研究者や大学生たちはその準備に取り掛かっているのだろう。
「さて、と。やりますか。」
俺がバイトの開始を決意する頃にはアグリ先生、もとい芥田准教授は既に共著の執筆に取り掛かっていた。
アグリ先生は22歳に博士号を取得してから、異例の速さでここ筑葉大学に准教授として招き入れられた。そのあまりの異例ぶりにワイドショーで特集を組まれ、TVのゲストとして連日オファーがあったそうだ。
しかし、有名になって光があたり、陽の部分が大きくなると当然、陰の部分が大きくなる。
やれコネ教授だの、親の威光だの、枕だの、まあそんな誰でも思いつくような悪口が囁かれるようになった。そいつらには是非ともアグリ先生の仕事ぶりを見て欲しい。
…単純に人として、レベルが違うと分かるから。
まず、さっき俺に言った指示からしてバイトの高校生にやらせる内容じゃない。アグリ先生曰くこんなの誰でもできるらしいけど少なくとも俺は最初の内はチンプンカンプンだった。
どうにか首にならないように喰らいついてはいるが…。
アグリ先生にはとにかく共著だの監修と言った作業が多い。アグリ先生の名前だけ欲しい自分の本に自身の無い奴か、アグリ先生をよく思っていない連中からのいやがらせなのだから断ればいいのに、
「そんなに時間もかからないし、私を必要としてくれるならうれしいよ。」
だ、そうだ。
是非ともそいつらには、アグリ先生との人としての能力の差に打ちのめされて欲しい。
11時を回ったころ、どうにか研究の資料のまとめとデータの整理が終わった俺は、研究室の掃除に取り掛かろうとしていた。
…それにしても、本当にこの研究室には紙が多い。最近ではペーパーレス化が進み紙を使わなくなったそうだけど、アグリ先生は紙の方がとっさに書き込めるから良いみたいだ。そしてこの膨大な紙たちは全てアグリ先生が主に研究している「農薬病」に関することで埋められている。そして、毎回来るたびに掃除している紙の束を積み重ねても、まだ、農薬病に対する具体的な治療法が見つかっていないという現実が俺に突き立てる。
「…んー終わったああー!!」
掃除が半分ほど終わったころ、アグリ先生の仕事が終わったようだ。
あいかわらず仕事はやいな~。
「お疲れ様です、芥田准教授。後30分ぐらいで終わるので、それまではゆっくり休んでてください。」
「だからアグリ先生でいいって!なんか距離感感じちゃうよ―…。っと、私も掃除手伝うね。」
「芥田…アグリ先生は雇用主なんだからそこで休んでいてください。…せめて、俺が今入れたコーヒーを飲み終わるまででいいので。」
「わかったよぉ。ってこのコーヒー熱い!飲めないじゃない!!」
そりゃあ、アグリ先生が中々飲み終わらないように熱々にしたからな。アグリ先生は猫舌なのである。アグリ先生がコーヒーに息を吹きかけている姿は…。
中学生にしか見えないんだよなー。
「…そういえば、午後からは附属病院ですよね?そっちの方は大丈夫なんですか?」
「ああ、そっちは任したから大丈夫よ。準備が終わったら一回こっち戻ってくるはずだから、昼休憩した後、病院に向かいましょう。」
「了解しました。アグリ先生。」
………………。
俺は、掃除しながらさも世間話のように、極力平静を保って、今日一番聞きたかったことをアグリ先生に質問した。
「今日は桃華とは…、会えるんですか??」
次回へ続く
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