有機農業ラブコメ⑫
ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~
前回のあらすじ
部活動体験での失敗を振り返る一同。
募集目標人数の1人に疑問をもった才場は、有機栽培同好会にはもう一人部員がいることを知る。
4人目の有機栽培同好会のメンバーである「会長」とはいったい…?
「いえ、現時点での生徒数は4人よ。」
「そうだねー!今はあたし、みかん、さいばくん、会長の4人だよ!」
会長??
「あれ、そういえば言ってなかったかしら?会長は、普段は生徒会があるからほとんど活動には来れていないけれど、 生徒会会長の権限をフルに使って同好会費の増額や、農機具などの備品の購入をしてくれているわ。」
思いっきり横暴じゃないか!先生がそれを許すなよ!!
「花を植えるアイデアも会長のものね。」
「生徒会が早く終わると手伝ってくれるし、会長は農業についてなんでも知ってるんだよ!!」
「ええ。特に会長は種子に関しては、さすがと言った知識量を持っていますね。こないだ撒いたラディッシュの種も、会長が用意してくれたものです。」
そんな知っていることは何でも知っているような会長がこの同好会の部員にいたのか…。
…とにかく、今現在の同好会メンバーは4人らしい。まあ、4月いっぱいで3人になるのだけれど。
「じゃあ、つまりあと一人入部させて、すぐにその会長に部の昇格申請をすればいいわけですか。一度部に昇格さえすれば同好会に落ちることはまずない。一度は栄えたが、すぐに人口流出が起きた衰退市みたいなものだ。4月で俺がいなくなるかもしれないことは黙って、5人として提出しちゃいましょう。」
衰退市なんて町や中には村の人口にさえ負けているところもあるからな…。市から町に降格するためにはその市の同意が必要みたいだから、わざわざ自分たちで降格しようとしなければ町や村になることはない。それと同じで、一度昇格の基準に乗りさえすれば、今後下回ったとしてもそう簡単に同好会に逆戻りなんてならないだろう。あるのは部として消滅するだけだ。
「考え方がせこくてずるくて陰キャではあるけれど…。まあ、そういうことね。最低1人、できれば2人勧誘するのがいいかしら。」
「あたし、バレー部の友達に兼部できないか聞いてみるよ!」
こうして今週中に部員を1人勧誘することに決めた俺たちは、中庭畑へと向かった。中庭の花壇とプランターのラディッシュの手入れを中心に作業していたが、花の元気がないみたいだった。来週には花を土に漉き込んで、周りから見えやすい位置にひまわり、それ以外はトマトやナス、ピーマンなどの夏野菜を植えていくらしい。花とは反対に、ラディッシュはすごい元気なようで、プランターの中ですくすくと成長していた。間引きをする予定だったが、どの苗も力強く育っていたため、急遽新しいプランターに移植した。
「まさかこんなに力強く育つとは思わなかったわ。」
「うん!捨てるなんてもったいないよ!!」
「先週やった校庭の隅にある圃場ももう芽を出したみたいだしね。こんな成長が早いのは土が良い証拠かな?一生懸命畑作りしてよかったね!」
「でもこんなにラディッシュ栽培してどうするんですか?4人分は軽く超えていますよ。」
いやまあ、確かに捨てるにはもったいないとは思うけどさ…。
「…。まあ、ラディッシュパーティーで使い切らなかったら、その時考えましょう…。一応保存食にするって方法もあるし。」
「そうだね!私はピクルスでも作ろうかな!!」
「私の研究でお世話になっている人にでもおすそわけするよ。」
その後、校庭の圃場でも少し作業をして、その日の同好会は解散となった。
◆◆◆
帰り道、アグリ先生が次のバイトについての紙と先月の給料明細を渡したいとのことで、二人で芥川准教授の研究室に寄ることとなった。
「わざわざ来てもらっちゃってごめんね~。はいっ、給料明細!いつもありがとうー。」
「いえ、こちらこそわがまま言ってバイトやらしてもらっているので…。迷惑かけます。」
「そんなことないよ。やっぱり才場くんがその場にいた方がより分かるし、桃華ちゃんもうれしそうな顔をするんだよ!それに…、今では執筆の手伝いや研究室の掃除まで手伝ってもらってるしね。」
「…そうなんですか。てっきり桃華は、俺の事なんか、気づいてないと思ってました。…これからも、バイト代に見合う働きが出来るよう頑張ります。」
そうか…、桃華は俺の事ちゃんと気づいていたのか。
桃華は俺のこと見てどう思っているんだろうな…。まあ、分かりきったことだけど。
「じゃあ、次のバイトの日だけど、今度の土曜日で大丈夫かな??午前中から別の用事を手伝ってくれるとありがたいんだけど…。」
「はい、午前中から是非やらせてください。…当然蜜柑もいますよね?」
「そりゃあ、一応研究室の一員だからね…。高校生だから土日だけのバイト扱いってことにしているけど。…どうして??」
「いえ、いるなら何でもないです。」
すると、アグリ先生はアホ毛を揺らしてなんかニヤニヤしていた。
「ふーん、そうなんだあ。蜜柑ちゃんかわいいもんね~~。」
「米子が思っているようなことはないから安心してください。」
まあ、耐性が高いから安心して喋れるという点において、現状、あの姉妹は喋りやすい人たちではあるけど。蜜柑はもう、気にしていないようでよかった。別に気にされようが、何も変わるわけでは無いのだから今まで通り接してくれるのが一番ありがたいというものだ。
「それに…、俺は顔だけなら米子みたいなかわいい系の方が好きですよ。」
「…えっ?」
ニヤニヤしていたアグリ先生の顔が固まり見る見るうちに赤くなっていった。
ふいうち成功。
ふいうちは相手が攻撃してくるときに成功するものである。
ポケモンと同じ。
人生で大事なことは、大体ポケモンが教えてくれる。
「……、そ、それってほんとう??」
「そんなことより今からご飯でもどうですか?どうせ帰っても飯ないし、作るのもめんどいんで。お金ならここにありますよ?」
別に一人でテイクアウトとかでもよかったんだが、アグリ先生もどうせこの後外食だろうしな。わざわざ別のところで食べる必要もないだろう。
「え?えぇ。まあ、私もこの後適当に食べるだけだからいいけど…。これってデートじゃ…。いやいやいや、違う違うっ!」
どうやらさっきの攻撃が思ったより効いたみたいだ。何やら自問自答しているようだけどよく聞こえなかった。少しして、アグリ先生は息を整えると、大人な表情に戻った。
「でも、お金は私が出すわ。大人として、教師として当然よ!」
「いや、でも…。いつもアグリ先生にはお世話になっていますし。たまには恩返ししたいなと思って…。」
「それに私は雇い主でもあるわ。そうね…いつも働いてくれるお礼ってことで!才場君は何が食べたい?」
敵わないなあ、この人は…。いつかまとめて恩返ししよう。
「では…、ただ飯ごちそうになります。そうですね、じゃあ人が…、特に子供や高齢者がほとんどいなくて、空調が整っているところでお願いします。」
「何食べたいって聞いて店の客層や空調を答えたのは君が初めてだよ…。でもそうね、うーん…あそこにしましょうかしら。」
こうして、俺たちはご飯に行くことになった。
次回へ続く
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