有機農業ラブコメ⑳
ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~
あらすじ
日潟と土下座で仲直りすることができた才場は、有機栽培同好会の部室に向かうことに。
中に入ると3人が微妙な反応をしながら才場を見る。
何のことかと思っていると、蜜柑から才場と日潟の対面土下座写真を見せられる才場であった。
ゴミにいやいや近寄るように蜜柑がスマホを見せてきたので、何のことやらと覗いてみると、そこには俺と日潟が土下座し合っている写真が写っていた。
「はあああああああ!???!!」
やばい、改めて見るとめっちゃ恥ずかしい!!!!しかも、日潟を除いたこの学校の知り合い3人に同時に知られるとかどんな罰ゲームだよ!
「…ちょっと、才場くん?大丈夫?日潟くんとこうなっているってことはうまくいったってことで良いんだよね??」
「…ええ。無事仲直りできました。うまく言ったと思います。…多分。」
日潟との事を知っているアグリ先生は心配そうに小声でたずねてきた。
まあ、そうだよな…。俺もまさか仲直りで土下座し合うなんて思わないもん。
それにしても…、人通りが皆無と言ってもいい生徒会準備室にいた俺たちの写真を何で蜜柑が持っているんだ?
……。
まさか…!!
自分のLINEを開くと、水野葵依から新たにメッセージが届いていた。
やっぱお前か~~!!
今まで未読無視していた所為で2ケタになろうかという新着メッセージ数を0にすると、そこにはやはり、先ほど蜜柑から見せられた写真と同じものが送られていた。
ついでに昨日のメッセージも確認したが、やはりどうでもいいことしか書いてなかった。
これからも未読無視で良いだろう。
くそっ、この人が会長なこと忘れていた…。
日潟が生徒会準備室を貸し切っていたことに少し疑問に思っていたが、会長に頼んでいたのか。
日潟の様子を見に、準備室を覗いてみたら俺と喋っていて、つい立ち聞きしてしまったようだ。
…まあ、しょうがないか。
いや、蜜柑たちに送ったことはまぎれもなくクソなんですけど。
そんなことを思っていると水野会長からさらにメッセージが届いた。
「やっっっと既読ついたー☆!!!」
「後輩から無視されてさびしかったぞ!」
「それで、ひがくんとはあそこで何してたの?」
うぜえぇ…。メッセージ送ってないのに既読まで監視されているって怖すぎやしませんかね…。とにかく、質問の要件と勝手に蜜柑に写真を送ったことについては連絡しておくか…。そう思い、さっとメッセージを送った。
この間も悠木姉妹から質問攻めにあっていたが、アグリ先生が代わりに説明してくれたおかげで、どうやら納得したようだった。
俺は、日潟と土下座で仲直りした後、さりげなく有機栽培同好会に勧誘した。仲直りできたことはかなり嬉しかったが、本来の、そもそもの、第一の目的は日潟の有機栽培同好会への勧誘なのである。
して、勧誘の結果というのは…。
「日潟は週1から週2程度で良いなら参加できるとのことだった。元々、アグリ先生に食事の事を聞いていたのもあって、野菜にも気を遣いたいみたいだし。良かったな林檎、蜜柑。新入部員が増えるぞ。」
…と、俺が得た成果を部長、副部長に報告すると、これまた微妙な顔をされた。二人してかわいそうなものを見る目だ。同じ表情をするとはさすが双子の姉妹ですね…。
2人して同じ顔をしていたのもつかの間、お姉ちゃんの林檎が泣きそうな顔になりながら俺に抱きつこうとしてきた。俺は慌てて手を前に出して動きを制止しようとするも、そのまま突っ込んできたため、肩を止めるべく軌道修正した。
が、少し間に合わない。
「林檎、落ち着けっ。」
「才場くんありがとねぇ~!!!」
そう言いながら、林檎はなおも抱き着こうとしてくる。
かくゆう俺は、まったく落ち着いていなかった。
…めっちゃ柔らかかった、めっちゃ柔らかかった、めっちゃ柔らかかった…!!
何がとは言わないが、強いて言うなら全体的に柔らかい。肩の方はさすがにバレー部に入っているだけあって筋肉がついていたが…その前に触れた部分は…。
なんなら林檎の空気そのものが柔らかいし、もう、女子は全部柔らかい。
中学・高校と思春期の時期に女子と触れることもなかった男の心中は、穏やかではなかった。
どうやらもう一人も穏やかではなさそうだけれど。
ふと蜜柑の方を見ると軽蔑した目でこちらを見ていた。
「ほら、林檎ももう離れなさい。才場菌がうつるでしょ。」
林檎の腕をとると汚いものをよけるように持ち上げた。そしてその林檎の手をウエットティッシュで拭いていた。何もそこまでしなくても…。
「みかんちゃん大げさだよ~!私たちは才場くんと普通に接しても平気だってアグリ先生言ってたじゃん!!それに、才場くんは部員を見つけてきてくれたんだよ?」
「それはそうだけど…。才場くん、…部員を見つけてくれたことに関しては、ありがとうございます。」
「お、おう。まあ、半分成り行きみたいなものもあったけどな。」
「でも、日潟くんはこれで良かったのでしょうか?」
「良かったも何も…。日潟が有機栽培をできるようになるんだからいいんじゃないの?」
「確かに、彼は多少なりとも有機栽培に興味があって入部してくれたのでしょう。そこは素直にうれしいですし、これから同じ部員としてやっていくつもりではあります。」
「でも…。一番はあなたがいるからでしょう?才場くん?」
「けれど、あなたは最初から言っているように、4月いっぱいでこの同好会を辞めるつもりなのでしょう?これじゃあ、日潟くんが入部してもまた4人に元通り。もしかしたら3人になることもあり得るわ。」
「それは…。」
このまま呑み込んでしまうこともできた。苦笑いをしてこの場を流すこともできた。だが、俺はしなかった。
「だってしょうがないだろ!?俺にはこの体質もあって、みんなの傍に行くことも、素のままで喋ることもできないんだよ!それに…妹のことだってある。俺が部活動なんてやることがそもそも間違っているんだよ…。」
俺はそう言って踵を返したが服を掴まれて前へと進めなかった。いや、後退できなかったと言うべきだろうか。
「才場くん、みんなってどこの誰の事を言っているの?クラスのみんな?学校のみんな?…ここにいるのは、私、林檎ちゃん、蜜柑ちゃんだよ?」
「才場くんが、今ここで何もつけずに喋っている私たちのことも、普通の人と変わらないコミュニケーションをとれている私たちのことも、才場くんが言うみんなの中の1人なのですか?」
「私は、才場くんが何か特別な体質?があるなんて感じたことないなー??それに、部活は誰が何しても良いところなんだよ!才場くんだからってやっちゃいけないことはないんだよ!」
「それは…。そんなことは分かってるよ…。でも、だめなんだ。俺は、これを青春だと認めて受け入れることはできない。だから…。」
「……悪い…、今日は帰るわ。でも…。」
…ありがとう。
俺が一番伝えたかった言葉はあまりにも小さく、彼女らが掴むことはなかった。ただ、静かに空中に漂い、やがて消えていった。
願ってもいないのに人に伝わる、俺の体質とは違って。
そうして、俺の、今日の有機栽培同好会での活動は終わった。
◆◆◆
次回へ続く
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