有機農業ラブコメ⑰
ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~
前回のあらすじ
棚橋との出来事で疲れてしまっていた才場は、部室のドアがしまる音で目が覚めた。
アグリ先生たちが先に「校庭圃場」に向かったと思い、一人向かった才場だったがそこにアグリ先生たちの姿はいない。
いたのは、先ほど廊下でぶつかった彼女だけで、何と彼女はこの学校の生徒会長兼、有機栽培同好会の3人目のメンバーである「水野 葵依」だった。
蜜柑に関しては俺のこと「サイバイキン」とか言ってきて妙に冷たかった。なんで俺の小学校高学年の時のあだ名知ってるんですかね…。
偶然ですかそうですか。
俺が病原菌という点においては全く間違ってないので否定もしづらいんだよなあ…。
俺のバイ菌は強力でガードでも無効扱いされていたっけ。
俺、最強!
校庭圃場の作業に関しては、夏野菜の定植、土寄せが主な作業だった。校庭圃場の殆んどに植えるらしく、重機が入らずの手作業だとかなりの仕事量だった。
「結局夏野菜って何を植えたんですか?」
「才場くんが今持ってるのがトマト。隣の列の紫ががっているのがナス。ナスの隣のフサフサした葉っぱのやつがきゅうりだね。」
「他にもピーマン、万願寺とうがらし、オクラも植えていますね。後、少量ですがあちらには大豆も植えました。少し余ったスペースは、後日、里芋とさつまいもを植える予定です。」
なるほど、結構な種類の野菜を植えるんだな。普段活動している人が悠木姉妹とアグリ先生だけと考えると結構な重労働になりそうだ。
「いつも任せっきりでごめんね~。新年度になってからは特に忙しくて…。アグリ先生たちといっしょにやりたいんだけど終わる頃には日が暮れちゃうの。でも、今週で生徒会の仕事が少しは落ち着いてくるから、来週からはなるべく出るようにするね!」
「会長はこの学校の顔なのですから別に気にしなくて大丈夫です。それに…、会長が生徒会終わってからや、休みの日を使って手伝ってくれているの気づいていますから…。本当にありがとうございます。」
「かいちょーは立派なゆうき同好会のメンバーだよ!」
「ありがとうございます。来週からもよろしくお願いします、水野会長。…って言っても俺は4月までなんで、ほとんど入れ違いになりそうですけど。」
「えぇ!??才場くんゆうきぶ辞めちゃうの???」
俺が4月までなことを伝えると林檎が驚いた様子でこっち向いてきた。
「いや、…辞めるも何もまだ仮入部だから、俺は正式な有機栽培同好会の生徒じゃないぞ。」
「えぇ~。そうだったの!??才場くん辞めないで!ゆうきぶがまた遠ざかっちゃう。」
林檎にまたグワングワンされるのを防ぐために、俺は林檎と一定の距離をとっていたらお互いにらみ合う形へとなった。
…ってかそんなに人の頭を揺らしたいのか。いくら俺が才場菌だからってさすがに揺らしても胞子は出ないぞ…。
そんな風に遊んでいると、
「へえぇ~。才場くん、仮入部の分際で部室を我が物顔で使っていたんだ~~。ソファの周りがまるで自分家みたいな感じで寝てたよ笑。」
会長がにやにやしながらそう毒づいた。
うっ…。そう言われるとさすがに耳が痛い。俺は乾いた苦笑いをすると、林檎と遊ぶのをやめ、前よりもいっそう畑作業に精を出した。
定植作業にあらかた終わりが見え始めると、今日のところは終了となった。
「そういえば、この植えた苗たちってどこで育てていたんですか?」
「どうしてそう思ったの?」
「え、…いや、前に種とかに農薬がコーティングされているものが多いとか言っていたじゃないですか。もし、市販の苗だったら農薬や化学肥料が入っちゃってないかなと思いまして…。」
「確かに!?農薬入っちゃっているかもじゃん!」
「安心してください。この苗は私たちが別の場所で育てたものです。サイバイキンのくせに意外と考えているのですね…。」
どうやら冷凍ミカンはサイバイキンがお気に入り罵倒ワードになってしまったようだ。
…早くなんとかしないと…。
「じゃあその苗はどこで育てているんだ?」
「私の研究ハウスでだよ。」
「…え?アグリ先生??」
「だから、私の研究ハウスでだよ。去年、大学側にかけあって作ってもらったんだ〜!名目上は大学の研究でだけど、ほとんど有機栽培同好会のために使っているね笑。」
なるほど…。いや、よく分からないけども。
とりあえず、これらの苗はアグリ先生の研究室のハウスで栽培されたものらしい。いいんですかね…。
「私や会長も土日とかの空いている日に行って世話しています。」
「ね〜!最新のビニールハウスで設備とかもすごいんだよ!才場君も今度来たらいいのにー。」
「もし機会があれば、行くかもしれません。」
「ってそれ絶対行く気ない人の返し方じゃない。」
「才場くん、今度研究室に来た時にでも寄ってみれば?」
…うーん、別にこれといって断る理由もないしな…。
「…そうですね…。じゃあ、今度行った時にでも寄ってみます。アグリ先生の仕事が早く終わればですけど。」
「うっ…。じゃあ今度才場くんが来た時はよりいっそう頑張らなくちゃ!」
「私も手伝いますよ。いつもは研究員としてのお手伝いだけでしたけど。」
「ありがとう!蜜柑ちゃん!」
空が茜色から藍色に移りゆく中で、彼女たちは農場で友情を確かめあっていた。
この二人は先生と生徒の関係だが、蜜柑が大人っぽくてアグリ先生が幼すぎるせいで同い年かと錯覚してしまう。
それにしても…、アグリ先生は今より仕事早くするとか神にでもなるつもりなのだろうか。今でも十分化け物なのに…。
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次回へ続く
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