有機農業ラブコメ⑬
ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~
前回のあらすじ
有機栽培同好会に新たなメンバーを加えるために、方法を考えた有機栽培同好会メンバー。部活後に芥田准教授の研究室に寄った才場とアグリ先生は二人でご飯に行くことになった。
「何食べたいって聞いて店の客層や空調を答えたのは君が初めてだよ…。でもそうね、うーん…あそこにしましょうかしら。」
こうして、俺たちはご飯に行くことになった。
そう言って連れていかれたのは駅前にひっそりと店を構える完全個室制の焼肉屋だった。
ここって相当高い店なんじゃ…。
「アグリ先生って普段からこういう店によく行くんですか?」
「他の教授の先生方に連れられて、たまに行くことはあるけど自分からここに来たのは初めてよ。」
とか言いつつ、アグリ先生は慣れた感じでメニューを適当に注文していた。しばらくすると高そうなお肉たちが木皿にのって登場した。
これ絶対高いやつじゃん!こんなきれいなサシのお肉なかなかみないわ!!
こうして俺たちは、しばらくの間「うまっ」とか「美味しい」とかこぼしながら無心で食べ進めていた。もちろん、こぼしたのは言葉だけで、アグリ先生が水こぼして大変だったとかそういうことは一切ない。…ほんとだよ?
色々ありつつもだいぶ食事は進み、締めの冷麺を頼んだ頃合いだった。
「どう?最近の学校生活は…?」
「何それ母親ですか…。いつもと変わらずぼっちで寂しくってやつですね。ってかアグリ先生も見てるでしょう?」
「そうかな?最近はぼっちじゃないと思うよ?」
「あぁ…。まあ確かに放課後は悠木姉妹や先生がいるからぼっちではないですね。教室ではあいかわらずぼっちですけど。」
「部活はどう?楽しめてる?私が少しむりやり誘っちゃったから、楽しめてるか不安だったのだけれど…。」
この人母親ムーブしかしてこねえな…。まあいいけど。
「本当のところ、案外と楽しくやっているのが悔しい所ですね…。なんかまんまとアグリ先生の策にはまっているみたいで。」
「ほんとう!?…じゃあ、本格的に有機栽培同好会に…。」
「それはおそらくないと思います。」
確かに有機栽培同好会自体は悪くない。悠木姉妹は耐性が高いからなんの気なしに喋ることができるし、アグリ先生にももっと色々なことを教えてもらいたい。でも、部活なんてキラキラしたものは俺なんかがやっていいものじゃない。
それに…。
今はまだあまり知られていないから大丈夫だけど、いずれ有機栽培同好会の知名度が広まり、入部希望者が増えたら…、必然と色々な人と喋らざるを得ない機会が増えてしまうだろう。
…もう、自分のせいで他人を病気にさせたくない…。
自分が、人とは違う生物であると知るのは悲しいから。
「…そうなんだ。…やっぱり君は優しいね。」
優しい?俺が??現実から目を背けているだけだ。逃げて、逃げて、残ったものは何もありはしないと言うのに。
「才場くん。あなたが何と言おうと私はあなたと、…桃華ちゃんの病気を治すために頑張るわ。あなたたちのためだけじゃなく、私の自己満足のためにも。」
「やっぱりどう考えても、先生の方が優しいですよ…。」
そう言うと、再び沈黙が流れた。
「……。折角の美味しいご飯が不味くなっちゃうね(笑)」
運ばれてきた冷麺を前にしてアグリ先生が微笑みながらそう言ってくれた。今の現状を吹き飛ばそうと必死に抵抗するかのように。
俺は、その優しさに甘える事しかできなかった。
「それはそうと、才場くん。誰か有機栽培同好会に入ってくれそうな人はいないの?」
アグリ先生は、麺をすすりながら何の気なしにそう切り出した。
「はあ?いませんよそんな人…。ってかその質問は悠木姉妹にするべきでしょう…。もしかして、ぼっちに対するいじめですか?」
「いやいやそんなつもりじゃなくって!!ただの世間話のつもりだったんだけど…。でも、林檎ちゃんはまだしも蜜柑ちゃんはいないと思うよ?」
「姉妹間のコミュ力の差ってやつですか…。でも、蜜柑もクラスでは女子と普通に喋っているでしょう?一人くらいいるんじゃないですか?」
「いや、いないよ。あの子は…蜜柑ちゃんは本気すぎるのよ。普段から様々なことに真面目だし本気だけど、有機栽培同好会は特に…。去年、有機栽培同好会を立ち上げた時に、何人か蜜柑ちゃんの友達が体験入部しに来たけど、みんな入らなかったわ。」
つまり、蜜柑が誘って入ってくれそうな人たちは既に勧誘済みってわけか。
「その点、才場君の手札はまだ残ってるってわけ。…、どう?誰かいない?」
うーん…。誰かって言ってもなあ…。悲しいことに、今現在学校で喋る人なんてアグリ先生と悠木姉妹ぐらいなんだよなあ。そう考えるとこの上なく悲しい奴だな自分…。
手札残ってるどころか、あがったのにUNO言ってないから反則上がりで負けた時みたいだ。
そういえば、UNOの公式ルールではドロー系のカードを重ねることは認められていないみたいだ。カードを友達と見立てるなら、そんな一瞬で連鎖反応的に友達は増えないってことだな。
UNOから学ぶ人生。
…まあ、俺は小学生以来やったことないんですけどね…。
…UNOはさておき、俺は、1年の冬に起きたある事件が起きる前までは、まだ少し喋る人はいた。
あの人たちは今何しているのだろう…。同じ学校という箱庭の中にいるはずなのにまったく分からない。
「あの子とはまだ連絡取っていないの?えーと、日潟君だっけ?」
「一応まだ、連絡先は残ってますけど…。」
そう、日潟とは1年の頃、あの時までは仲が良くて、あの時一言以来一度も喋ったことも会釈をしたことない友達だったやつだ。
そんなやつを名前に出すなんてアグリ先生は何を考えているんだ…。
「さすがにもう、あいつに連絡なんて…取れませんよ。」
「でも私、あの事件で才場くんだけが悪者にされているのは違うと思うけどなー。本当は日潟君も、自分も悪かったと思って、謝りたいとか考えているかもよ??才場くん、一回ぐらい連絡してみてもいいんじゃない?どうせ今、才場くん学年の中で評価とか最低だし大丈夫だよ!!」
いや止めてくれよ!その評価!!
「生徒が俺の悪口言ってたなら止めて下さいよ…。まあ、実際特に何とも思わないですけど。」
「で、でも!私は才場くんのことちゃんと良い子だって評価しているからね!」
「…ありがとうございます。…じゃあ、今日帰ったら日潟にLINEでも送ってみますね。でも一回きりですよ?既読無視されるオチが読めますけど。」
「うん!絶対だからね!!」
デザートのアイスを食べ終え、俺の月のバイト代の半分以上もするお会計を支払ってもらい、その日は後にした。本当に申し訳ないが、今日だけは自分の体質に感謝した。
本当、米子申し訳ねえ。
次回へ続く
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