ゼロから始める新卒社会人の雑記

新元号が発表された2019年4月1日、新社会人となった私はブログを始めました。 1から。いいえゼロから!

有機農業ラブコメ⑧

ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~

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前回のあらすじ
悠木蜜柑には農薬病にかかっている弟がいた。才場や蜜柑にとって憂鬱な午後がはじまろうとしている。




憂鬱な午後が始まる。

◆◆◆

筑葉大学付属病院は、筑葉大学の程近くにある。この地域では最大規模の病院であり、地域の老若男女誰しもが通うことが出来る病院である。
そんな、ごく普通の病院の地下に、生物・細菌災害に関した研究をする研究所が存在していた。これは、一般的には公開されていない極秘の研究所である。
 
「あれっ。ミカンちゃん、才場くんともう話しててもいいの?確か高校の人にはばれたくないとか言ってた気がするけど。」
 
「よくないですけど、才場くんが勝手に話しかけてきたのでしょうがなかったです。」

えぇ…。そんなに話しかけちゃ駄目だったの…。

「でも、その格好、大人びててかっこいいよミカンちゃん!ね?才場くんもそう思うでしょ??」

「そうですね。大人の女性感あって、学校の時と雰囲気も違って良いんじゃないですか?」

アグリ先生が同意の目を送ってきたため、大人しく従っておくことにした。

「だってよ!ミカンちゃん。よかったね!」

というか髪型と化粧でここまで変わるなんて女の人凄いな…。

「…い、いえ、ありがとうございます…。でもこれは、私の中で変装みたいなものだから、このバイトか、誰にもばれたくない用事以外にはするつもりはありません。」

「…私も化粧とか変えたら大人っぽくなるのかなあ…。」

そうボソッと呟いた言葉に俺は何も反応できなかった。
できるわけないんだよなぁ。

「「…」」

「あー!絶対無理だって思ったでしょ!」

「顔と身長とスタイルを変えれば大人っぽくなると思いますよ。」

「もう才場くんは、アルバイトクビにします。」

「本当にすみませんでした、許してください。アグリ先生は美人で大人な先生です。」

そんなくだらない、なんてことはない話をしながらも、俺の心拍数がどんどん上がっていくのが分かった。
病院の近くに着くと、俺は昼休み渡された除菌・抗菌マスクを装着した。マスク以上ガスマスク未満のようなものと言えば分かりやすいだろうか。その他にも除菌・抗菌プレートなど身に着けていった。俺は、病院で他の患者に感染させるのを防ぐために、全身をアルコール消毒し、抗菌服に着替え、エアシャワーを浴びた。これは、どうやら俺の体内に潜んでいる病気が広がるのを防ぐだけでなく、病院から菌を俺が吸収するのを防ぐ狙いもあるらしい。

「…今まで遠くからしか見てなかったけど、相変わらずすごい格好ですね。」

「これでいつバイオハザードが起きても俺は大丈夫だな。」

「……そうね。」

そういう彼女は笑っているようで少し悲しい顔をしていた。

「じゃあ、行きましょうか。」

「…ああ…。」

「別にあなたは数値を記録するだけでしょう?別に緊張しなくてもいいのよ。ただ、お見舞いに来たとか思えば…。」

「…そうだな…。」

でも罪悪感っていうのは消えてくれないんだ…。忘れたくても、関係ないと頭では分かっていたとしても…。
ある日、ある時ふと思い出してしまい、その度に罪悪感で全身がよじれ、擦り切れ、おかしくなってしまいそうになる。例え、俺たちにはどうしようもないことだと分かっていたとしても。

地下の研究室に着くと、色々な名前の分からない実験機具が雑多に置かれている中、そこにポツンと、一面ガラス張りの病室があった。世間から隔離されたこの地下室で、その病室は生活感を無理やり演出していた。
「あ、侑樹くん、蜜柑さん準備できましたか?今日も先日同様被験体の検査を行います。お二方は検査結果の記入と整理をお願いします。侑樹くんは、気分が優れなくなったらいつでも退出して休んでいてください。くれぐれも無理は禁物ですよ?」

アグリ先生、いや、芥田准教授は研究者モードの口調になっていた。心ばかしか、顔立ちも変わっているように思う。

…このモードの先生、すごい大人っぽいですよ。

その忠告を有難く受け入つつ、俺たちはそれぞれの持ち場に着いた。

「では、開始します。…才場さん、今日もよろしくね?」

そう言うと、病室の奥から、見るからにか弱い、中学生ぐらいの女の子が現れた。

「…はい…。よろしくお願いします。」

そこには、僕の妹であり、農薬病の最高重篤患者である才場桃華の姿があった。


次回に続く


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次回
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