有機農業ラブコメ⑪
ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~
前回までのあらすじ
土曜日のアルバイトから早10日。有機栽培同好会のメンバーは、先週に行った部活動体験で感触がよくないことを知り、疑問に思う。
才場侑樹を除いて…。
同好会体験に問題はなかったなんてもんじゃない。
あれは、先週の火曜日と水曜日に行った同好会体験での出来事だった…。
「今日はいよいよ同好会体験の日だね~!!いっぱい人が来てくれるように頑張ろう!!!」
そう言って悠木姉ははりきっていた。
「ええ、…そうね…。」
「あぁ…。っていうか俺は本当は迎えられる側なんだけど…。なんでこっちなの?」
ほんとに何でこっちなの?おかしくない?まだ仮入部3日目だよ??
「才場君は一応仮でも入部しているからねー。それに男手も欲しいし…。まあ、こっち側から体験してみてよ。」
「あいかわらずアグリ先生無茶苦茶だ…。」
「それはさておき、蜜柑ちゃん昨日からなんだか元気ないね?どうしたの??」
「そうだよー!なんか嫌なことでもあったの?」
「いや、そういうわけではないけれど…。」
そう言いながらも悠木妹は、ちょくちょくこっちを見てくるのが分かった。
ぼっち歴が長いと、他人からの目線には敏感になるものである。他人から何か言われてるなー、何か見られてるなー、怖いな―怖いなー、でも声かけるのはこっちが怖いなーってなるのである。
最初のうちは、相手が病気にならないよう配慮しての対応のつもりだったが、いつしかコミュ障となってしまった俺は、どっち道声かけられなくなっていった。あれ?これ俺もコミュ障って病気に感染してね?俺がかかるレベルの感染症じゃ日本はもうだめみたいですね…。
日本全コミュ障時代の到来かー。
まあ、悠木妹に関しては、大方こないだの実験から俺に気を使っているのであろう。…ただ気まずそうにしているだけな気もするけど…。
「悠木妹は今のこのメンバーが良いってことじゃないか?人が多いとどうしてもお姉ちゃんやアグリ先生、そして俺とも話す時間減るしな。まあ、コミュ障が考えそうなことだな(笑)」
「なっ…そんなわけないじゃない…!。第一コミュ障じゃないし、百歩譲ってりんごやアグリ先生は認めてもあなたは絶対にありえないわ。撤回しなさい!」
「良かったですね、林檎、アグリ先生。どうやら悠木妹は、あなたたちのこと大好きみたいですよ。」
「えへへー。本当に蜜柑は甘えん坊なんだから~!例え部員が増えたとしても私は蜜柑が一番大事だよ!!」
「ありがとう~蜜柑ちゃん。…でも、皮算用ではあるけれど、確かにあまり部員が増えるのも考えものだよね。部室には農機具や土、有機肥料が置いてあるから、そこまでスペースがある訳ではないし、畑にも限りがある訳だし…。入部する生徒を絞ってみてもいいかもね。」
おお…、なんかすごいこと言いだしたなこの米子…。
「え、いやさすがにそういうことしないで…、」
「いいね!どうせ入ってくれる子だったらやる気があってちゃんとした子が良いなー!」
「そうですね。出来れば最初からある程度知識を有している人を選出したいですね。」
「いや絶対そんな生徒いないでしょ…。兼部で入ってもいいって人狙いで、水やりとか荷物運搬とか…、収穫とかのお手軽に気楽に達成感味わえる作業をやってもらえばいいのでは…?」
お手軽お気楽無責任で達成感を味わえる!!
そんな都合のいい部活があれば、一定数のニーズは獲得できるだろう。
…多分。
そんな俺の言葉には耳も貸さず、3人は円を作って手を合わせていた。それじゃあ円形ってより三角形だぞ。
「同好会体験会成功させるぞー!」
「有能で喋らない男手を確保しましょう。」
「私の講義も披露するぞ~。」
てか…、アグリ先生この状況絶対楽しんでるな…
そして、この後始まった同好会体験会は俺が危惧したとおりになった。
まず、部室に集まった体験部員に、簡単な同好会内容と作業内容を話したところまでは良かった。
しかし、悠木妹はその後何を勘違いしたのか体験部員にテストをやらせるし、圃場作業中では重い物を運ばせるし、何かチェックシートみたいなもので一人一人チェックしていた。あれは、もう、完全にパワハラだった。何が書いてあるのか気になったので覗き見てみると、何故か俺の項目もあり、備考に「やる気を感じられない。」と書いてあった。
アグリ先生もアグリ先生で、圃場活動が終わると勝手に講義をし始めた。しかも講義の内容が完全に高校教育を超えていて、聞いている人は唖然としていた。
そりゃそうだ。
簡単な気持ちで入ろうとした同好会が、こんなに難しくて勉強が必要なものだと感じたのだから。
講義の内容に関しては、俺と蜜柑さんでさえもついていくのがやっとだったため、林檎も良くわかっておらず「ほえー」とか「ふえー」とか隣で鳴いていた。
その林檎に関しては、全体的には飴と鞭で言う飴的な役割をしていたと思うが、圃場活動の時、男子よりも優れた運動神経と男子並みの力を発揮して、男たちのプライドを無意識に傷つけていた。
てか、男手いらねえじゃん…。
そして、俺はと言うと…、マスクとホルダーをかけて、隅っこでそっとしていた。
だってたくさんの人がいるしね!しょうがないよね!!
時々、仕事を手伝ったりもしたが、極力悠木姉妹とアグリ先生以外には近づかないようにしておいた。
こうして一日目が終了した。
二日目に関しては、もっとひどかった。どうしても行かなくてはならないとかで、林檎が時々手伝っているバレー部に行ってしまっため、飴と鞭の飴無しの同好会体験が行われてしまったのだった。
この日を境に悠木妹は一年生から恐れられる存在となり、後何故か、俺もいっしょに恐れられるようになった。風評被害なんだよなあ…。
そんなこんなな同好会体験会だったから、当然誰も寄りつく人はいなかった。
「悠木妹、お前一年生からなんて言われてるか知ってるか?」
「何かしら?」
「冷凍ミカンって陰で言われてるぞ。」
「なっ…。」
まあ、おれはその冷凍ミカンの部下って言われてるけど…。
「まあまあ、元気出して蜜柑ちゃん。」
「給食の冷凍ミカンって美味しかったよね!!」
冷凍ミカンさんはわなわなしてるかと思ったらすぐに落ち着いていた。
冷却機能すごいっすね。
他人事のように慰めてはいるが、アグリ先生も十分戦犯なんだよなあ…。まあ、この人に関しては、最初からあまり入部させたくないような感じだったけど。あまり病気に耐性のない人が入部すると、俺が行きづらくなるとか思ったのかもしれないが、元々4月いっぱいまでの仮入部なのだから余計な気遣いというものだ。後、冷凍ミカンは美味しい。
「部活動体験は先週で終わってしまったけど、部活動の申込み期間は今週中なの。それに、特別な理由があればいつでも入部することは出来るし。…とにかく、部活動は5人いればいいんだから、あと1人見つけましょう。」
ん?1人?
「アグリ先生、あと2人じゃないんですか?俺を数に入れたとしても今の生徒数は3人ですよ。というか俺もいなくなるわけですから3人勧誘した方がいいと思いますけど…。」
「いえ、現時点での生徒数は4人よ。」
「そうだねー!今はあたし、みかん、さいばくん、会長の4人だよ!」
え?会長??
次回へ続く
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