有機農業ラブコメ⑭
ゆうきぶ~有機栽培部へようこそ!~
前回のあらすじ
アグリ先生と二人で高級焼肉屋にきた才場は、アグリ先生に有機栽培同好会について聞かれるも入部することはないという。それはやはり才場の体質が影響していて…。
アグリ先生から昔、友達だった日潟を有機栽培同好会に誘ってみてはどうかを提案され、才場は一回限りで連絡することを渋々了承してしまう。
デザートのアイスを食べ終え、俺の給料の半分以上もするお会計をおごってもらい、その日は後にした。本当に申し訳ないが、今日だけは自分の体質に感謝した。本当、米子申し訳ねえ。
◆◆◆
次の日の放課後、俺は動揺していた。
「俺クラスでなんかやったっけ…?」
今日も例のごとく、空気になりきって教室に入ったのだが、どうも俺に向けてくる目線があった。しかも、どうやら目線の主は、学級委員である棚橋のようで、棚橋と一緒にいる取り巻きのやつらも一様に目線を向けてきていた。
気まずい…。
この時は適当に寝たふりをしてなんとかやり過ごしたが、この場限りで終わるはずもなく、教室移動の時や昼休みの時など、時間の区切りがあると、その都度目線を向けてきているようだった。
そして先程。帰りのSHRが終わって、さあ今日も有機同好会に行こうかねぇと、カバンに手をかけようとした時。
なんと棚橋のやつが俺に向かって一直線に歩いて来ているじゃないか。その時の棚橋の顔が、世間話に花を咲かせるつもりの顔ならまだ止まる事も出来たが、どう見てもあれはそんな顔じゃない!
…ってか第一、それだと俺に話しかけに来ない!!!
…そういうわけで、俺は足早に教室を後にした。息を止めながらなるべく多くのグループのそばを通って。
簡単なことだが人気者ほどかかるトラップだ。
狙い通り、棚橋は俺が通ったグループの人たちに捕まって言葉を交わしている。
ちなみ俺は誰にも気にも止められなかった…。
あぁ、人気者ってめんどくさそうだなあ。
棚橋に心の中で敬礼すると教室を後にした。
…で、今。俺は前方不注意で女の子とぶつかり、押し倒していた。
何つーベタな…。ちなみに一瞬見えたパンツの色は水色だった。
「すみません!!大丈夫ですか!?」
慌てて彼女から離れると、俺は頭を下げて精一杯の謝罪をした。
「あはは。私も前をよく見ていなかったからね~。お互いさまってことで。」
そう言うと彼女は手をこっちに向けて何か伝えてきた。何だろうか?
「ん。」
ああ、そういうことか。おれは手を伸ばして彼女を立たしてあげた。初対面なのに距離感近いな…。
「ありがとっ。まあ君に転ばされたわけなんだけど笑。」
「…、これ落としたものです。割れものとかじゃなくてよかったです。」
「ありがとー。これからは気をつけるように!二度もパンツ見せることはないからね!」
彼女はお姉さん口調でそう言うと、荷物を持った手でぎこちなくひらひらさせながら俺とは反対方向に歩き出していった。
パンツ見たのばれていたとは…。それなのにあの余裕はさすが年上と言ったことなのだろうか。
アグリ先生なら…。うん、普通に怒られますね。
ブレザーにつけられたあの腕章は生徒会のものだっただろうか。この学校には風紀委員も存在していて、どちらも同じような腕章をしていたから何とも分かりづらい。
とにかく、俺とは普段全く縁のない人だろう。上履きの色を見るに3年生だし。
…ん?何か忘れてないか??
「やっと追い付いたぞ、才場!!」
肩で息をしながら棚橋が現れた。
あ…。やっば忘れてた。…っていうかしつこいな…。これじゃあ今日撒いたとしても、明日も追われていた気がするぞ。ここは諦めて会話に応じるか。
「どうしたんだ?棚橋学級委員。…何か用ですか?」
最初は強気でいくつもりだったのにだんだんと弱気になってしまった…。同級生に敬語使ってしまうの最高に陰キャっぽい。
権力に屈しちゃう社会の犬の適性あるわ俺…。
「どうしたんだって、今日僕が君に話しかけようとしてたの気づいていただろう?」
「いや、全然気づかなかったよ…。今日もこのまま部室に向かうだけだったし。」
話しかけようとしてたのは知っているけど何を話そうとしているのは本当に分からないし。
「…まあいいや。で、才場、お前日潟にまた何かしたのか?」
…。ああ、そういう事か。
俺が合点の得た顔をしているのを見て、棚橋は促すでもなく話の続きをしてくれた。
どうやら要約するとこういうことらしい。昨日の夜、俺からLINEが来たことに気づいた日潟は、同じ部活で俺とクラスが一緒の棚橋に俺と今度話すことを伝えてほしいと頼んできたそうだ。俺との事件を知っている人間なら、わざわざ日潟が才場に話をしようとしているのか分からないはずだ。例にもれず棚橋も疑問に思ったが、とりあえず友達の頼みということで受けてやることにしたそうだ。
…なんだよ棚橋いいやつかよ…。
「というわけでよく分からないが伝えたからな。才場が話してもいいなら今晩にでもLINEで送ってくれ。話す気がないなら送らなくてもいい。」
そう言い終えるともう話すことはないのか、棚橋はそれじゃあと後ろ向きに振り、歩き出そうとした。
これから彼も部活が始まるのだろう。
「あ、あぁ。分かった。わざわざありがとう。棚橋。今日一日気も揉ませたみたいで悪かった。…日潟に、今晩にでもLINEを送るから待っていてくれと伝えてくれるとありがたい。」
最後の方はほとんどもごもごとしか口が動かなかった気もするが、棚橋はこちらを振り返らずに手を挙げた。伝わったと信じてもよさそうだ。…てか、棚橋イケメンで良い奴とか「かっこ良い奴」かよ。
…紛らわしい!
次回へ続く
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